でも、壊せないもの。

巧く描いた筈の水彩画を唐突に黒い絵の具で塗り潰してみたくなったり、納得のいく曲線に仕上がったであろう窯から取り出したばかりの造形物を、床に叩きつけたりしたくなった事はないだろうか?えっ?そんな衝動に駆られてしまうのは私だけ?(笑)一見完璧そうに見えるものに何故か「憎しみ」に似た感情を抱き、不完全そうに見えるものに何故か「愛しさ」に似た感情を抱く。「かたちあるもの」は、壊される事によって、壊される前よりもより完璧な「かたち」になると思って疑わなかった。壊さなければ、壊されなければ、よりよい「かたち」にはなる事はない、と。既に「かたちあるもの」を壊すと言う事は、途方もなく勇気の要る事。敢えて壊す必要のないものを壊すと言う事は、途方もない決断力を要する事。壊してしまって、初めて壊したものの大切さに気付き、元のかたちには決して戻らない事を悔やむと解っているのに敢えて壊す。でも、どうしても壊せないものもある事も知っている。壊してしまったら、おそらくずっとずっと後悔し続けるであろうもの。私が後悔と引き替えに、その何かを壊す日がやって来るのだろうか?