それを「恐怖」と思うか「スリル」と思うか。

MALENA2004-05-25

私は、暫し「その理由」について考えていた。田園風景が延々と続くインドの
田舎道をひた走るバスに揺られて。

渋滞しているワケでも無い。人が横切っているワケでも無い。牛が道の真ん中
に寝ているワケでも無い・・・・なのに「ひっきりなし」にクラクションを鳴
らすのは何故だろう?しかも、クラクションが鳴らされた直後には、心なしか
スピードが上がっている気がする・・・

デリーに到着した夜も、そして今朝も、ターバンを巻いて「狸の置物」のようなお腹をしたバスのドライバーさんは、気の良さそうな優しい笑顔で「ナマステ」と挨拶をしてくれた「極めて感じの良いおじさん」だった。

まさか・・・このドライバーさんは、典型的な「ハンドルを握ると人格が豹変
する」タイプの人だったんだろうか!?前を走る車の遅さにイライラする度に
「オラオラ!チンタラ走ってんじゃねえ、このクソガキがっ!」ってな具合で
ラクションを鳴らしまくる・・・こんな事に「限って」は全世界共通なのか

おじさんの疑いを晴らす為と言うよりはむしろ、ただ単にその「原因」は何か
が知りたいが為に、私は、ひたすら行き交う車と、交通事情についての観察を
開始した。開始から30程経って、私の「任務」は「あっけなく」終了してしまった。何て事はない。クラクションは単なる「追い越す」時の合図だったのだ。インドの自動車にはサイドミラーが無いものや、付いていても何故か閉じ
られているケースが多い。故に追い越す時は相手にそれを警告しなければなら
ないのだと推測された。

でも・・・もしも大音量で音楽を聴いていたりした場合はどうなるのだろう?
こう言った場合はもう「運頼み」しか無いのであろう。
おじさんに罪は無かった事を理解するや否や、単調な田園風景を見る事に飽きた私は、暫し瞼を閉じてみる事にした。

ガイドのシヴァさんは言った「インド人は信号以外の交通規則を守り”たがらない”んですよ、フッフッフッ」と(笑)
「守る」でもなければ「守れない」のでも「守らない」のでもなくて「守りたがらない」私自身「解らないでもなくて」人知れず、奇妙な笑いを浮かべてしまった(笑)

サイドミラーの無い車。定員オーバーもいいとこの車にリクシャー。3人乗り
のバイク。前後の乗降口が「閉じられている」のなんか見た事無い路線バス。
どう見ても積載オーバーのトラック。道路上でバスの乗降をする人。お構いなしに道路を横断する人や牛。
もしも、自分がこの状況下で運転するとしたなら、これらを「恐怖」と思うか
「スリル」と思うか。

私は「恐怖」も「スリル」も、そこには存在しないと思う。道路の上に「混沌とした事実」が存在しているだけ。余計な事は何一つ考えずに、その混沌に身を任せる「だけ」でいいのではないか、と。

デリーを離れる日の朝、まだ夜明け前の空港に横付けされたバスの横に立って
おじさんは私達旅行客を見送ってくれた。デリーに到着した日の夜と同じ、気の良さそうな、優しい笑顔で。