この地球上の何処にも「安全と水はタダの国」なんて存在しない。

MALENA2004-05-28

「ところで、インドって治安はどうなの?余り良く無さそうだよね・・・」
何処に行くの?との質問にインドと返答すると、こう訊かれる場面が多々あった。カシミール問題やムンバイでの爆破事件にデリーでのテロ未遂事件があったからだろう。それに、治安とは直接関係は無いものの、インドは核保有国である。それらが「何となく物騒なイメージのする国」と言う印象を与えてしまうのかも知れない。私自身は、外務省のホームページを見ても、確かにカシミール地方には「退避勧告」は出ているものの、有名な観光地等には勧告は出ていなかった事もあり、治安については別段、何も考えてはいなかった。
なので、治安の質問については「悪いって程でも無いのでは」としか答えようが無かったのだった。
たかが数日滞在しただけでは何とも言えないが、私自身はインドの治安は「良くも悪くも無い」といった感じに見受けられた、と言うよりは「インドのいろいろを見たい」と言う思いの方が強くて、治安の事は「頭の片隅にも無かった」故に、正確な事は何とも言えない・・・と言うのが本当のところかも知れないが・・・

確かに「9・11」以降、誰もが安全や治安と言った事柄に「9・11」以前とは全く別の認識を持って考えるようになったと言えるだろう。加えて、パレスチナ問題をはじめとする中東情勢の複雑さに、頭を抱えざるを得なかった人も大勢いたに違いない。私も、納得出来るような結論が「出せない」事が解ってはいても、パレスチナ問題について友人と幾度となく語り明かしては、一筋の光の気配すら感じられない状況を憂い、重たい空気に包まれる・・・おそらくこの「重たさ」こそが「9・11」が私にもたらした(これ迄とは全く異なる)世界観への問題提起だったのだと思う。「9・11」以降、アフガニスタンでは新政権が発足し、イラクでは戦争が始まり、バリ島、イスタンブールマドリッドでは爆弾テロが起こり、パレスチナ問題は更なる泥沼化の様相を見せている。
これらを含む世界情勢は今、猛スピードでこれ迄にない転換期を迎えているのだと改めて考えさせられる。「9・11」の時、ワールド・トレード・センターではIT関係企業を中心に、そこに勤める多くのインド人が亡くなったそうだ。

カンヌ映画祭パルムドールを受賞した、マイケル・ムーア監督作品「華氏911」のアメリカでの上映の「雲行き」が、かなり怪しくなっている。何でも、政治的メッセージだか、背景だかが強すぎて、現在(いま)のアメリカで上映するのは如何なものか?とディズニーが配給中止の意向を示しているらしい。
現在(いま)のアメリカで・・・「華氏911」の中には、イラク戦争の映像も含まれているらしい。それも含めて「如何なもの」なのだろう。でも、本当にそれでいいのだろうか?イラク人捕虜への虐待写真は公開しているのに、何故映画は公開しようとしないのだろう?虐待は現実に起こった事件で、映画はあくまで映画であると言う見解なのだろうか?私的には、腑に落ちないなんてもんじゃない。映画を観て、それをどう解釈するかは個々人の自由であっていい筈だ。映画を観る自由すら制限されてしまう方が「如何なものか」と言わざるを得ないと思う。

現在(いま)のイラクでは、多くのイラクの民間人が、軍隊を派遣した国の兵士が、さまざまな国の、さまざまな職業の人が死んで行っている。そして、それらの状況を各国のジャーナリスト達が、それこそ命懸けで報道してくれている。彼等が報道してくれるからこそ、私達はその状況を窺い知る事が出来る。その事実に、私は心から感謝している。

私は「華氏911」の日本での公開を切望してやまない。イラクで死んで行った人達が流した大量の血が、時間の経過と共に乾き切ってしまう前に、私は「何か」を考える事が自分自身にとって、とても大切な事に思えてならないのだ。