そこは彼等の「楽園」昨年の夏の記憶が甦る・・・。

MALENA2006-05-22

前日も、そしてこの日の最高気温も28℃。
ちょっぴり湿った空気と生暖かい風と、そして東京よりもずっとずっと近くに感じる太陽。木々の緑色は深く濃く、民家の軒先や、道端などそこかしこで目にする花々は鮮やかな色彩を放っている。八重山の島々は、やっぱり南国なのだ。

由布島を散策(此処では、鳥や小さな猿や山羊などの小型の動物と、植物園が併設されている)していると、ハイビスカスをはじめとする南国の花々が目にとても鮮やかに映る。心地よく香る花々の香り。・・・ん?・・・今・・・何か・・・ハイビスカスの前を横切る・・・掌ほどの大きさの・・・ヒラヒラとした・・・黒くて部分的に青い色をした・・・。

あ・・・アゲハ・・・蝶ーーーーーーっ!!!(涙)
しかも・・・一匹だけじゃない・・・(涙)白いのも・・・黄色いのも・・・黄色に黒いスジが入った大きいのも・・・。

気温28℃。でも、ハイビスカスの前で脂汗と共に”精神的気温”が瞬く間に氷点下に急降下する私。そして・・・。昨年の夏の「忌わしい記憶」が甦る。

カンボジアの旅。クバールスピアンの滝で”昆虫の粉(何じゃそりゃ)でも散布しているんじゃないか”と思える程に狂気乱舞する蝶たちの光景。そこは当に蝶の楽園だった・・・。南国、咲き乱れる花、伸び伸びと葉を広げる緑たち。此処も・・・蝶の・・・楽園だった・・・のか・・・(号泣)

ハッと我に返り、猛ダッシュでハイビスカスの前を立ち去る。蝶の影に怯えながら(笑っちゃうくらい小心者だ・・・)挙動不審さ満載の動きで歩く、ずんずん歩く。アンタは逃亡犯か(涙)そうこうしていると、山羊の囲いのところに辿り着いていた。黒目の部分が横長の長方形をしていて、(山羊の黒目は皆そうだ)物知りおじいさんのような風貌をした山羊を見て、何故かホッとする。嗚呼・・・助かった・・・。

と思いきや。
山羊の上をひらひらとジグザグに舞い飛ぶ黒いアゲハ蝶・・・。それはまるで、逃亡犯を追い詰めるベテラン刑事の如く・・・。

「もう諦めるんじゃな。此処は八重山、日本の南なのじゃよ」
長方形の黒目で山羊がそう呟いたような気がした。そっか・・・石垣空港に降り立った時、日本じゃないような感覚に陥ったもんな・・・。蝶が狂気乱舞していても、きっとそれは此処の正しい姿なんだよな、きっと。

色とりどりの花が咲き乱れ、生き生きとした緑が集う。それらが自然(天然)であればあるほど美しい。そして、美しければ美しいほど、昆虫たちもそこに集まり、そこから蜜などを得、命の糧とし、花たちは次の命を昆虫たちに運んでもらう。それは、遥か遠い昔から脈々と続く命の営み。自然界に、人間が邪魔にならないようにそっと”おじゃまする”そんな謙虚な気持ちを持つ事が大切なんだろうな、きっと。

相変わらずひらひらとジグザグと舞いながら、でも少しずつ私から離れて行き、少しずつ小さくなって行く黒いアゲハ蝶の姿をぼんやりと眺めながら、私はそんな事を考えていた。