そして、南へ

那覇に到着した日の夜も、翌朝も私は何処に行こうかハッキリと決めてはいなかった。煙草片手にぼんやりと考える。美ら海水族館・・・シーカヤック・・・。いや、何だか違う。何かが違う。

そんな時、ホテルの入り口で地図なんかが挿してあったラックから何も考えずに持って来た一枚の青色の紙が目に飛び込んで来る。半日観光ガイドツアーと書かれた下には「南部へゆったり旅 風の吹く場所へ」と言う文字が書かれていた。風、か・・・。

那覇よりも南、沖縄本島の一番南に行きたい気持ちはあった。南部は先の戦争で日本国内で唯一地上戦が行われた場所。平和記念公園ひめゆりの搭。実際に自分の目で見ておきたい思いはある。でも、今の自分に過去の事実をきちんと受け止める”心構え”はあるのだろうか・・・。暫し考える。いや、悩む。

いや、でも・・・。
行ってみよう、南部へ。空を見上げ、風の音を耳にしたら自分なりに何かを考える事が出来るかも知れない。と言う事で、沖縄の事をいろいろと聞きたいと言う思いもあり、earth tripと言う沖縄民間観光案内所のガイドツアーに参加する事に。ゆいレール小禄駅に程近いearth tripの事務所を訪ねると「今日壺屋通りにいましたよね」と声を掛けられる。何でも、私ときたら妙〜に旅人然とした空気を放っていたらしい。嗚呼、確かにこのズボン三日連続で穿いてるわ・・・(笑)

この日の半日観光ガイドツアーに参加したのは私一人だったらしく、ガイドさんとマンツーマンと言う何とも贅沢な旅は一路糸満市を目指し那覇を出発する。那覇を離れるに連れ長閑な田園風景が広がり、心なしか空の色もくっきりとした青色になって行くような気がした。

那覇を出発して40分程で糸満ロータリーに到着する。人の多い那覇とは打って変わって、糸満の街はとても静かでともすれば寂れた港町の風情すら漂わせていた。先ずは糸満の日常を見たくて公設市場を訪れたのだが、こちらも最終日曜日と言う事でお休みだったので別の市場を訪れてみる。糸満は港町と言う事もあり他の沖縄の地域と比較して話し方がキツいんだそうだが(俗に言う浜言葉)私が北海道育ちと言う事もあるのだろうか?キツさは感じずむしろ大らかな感じがした。

市場を出てフと見上げた糸満の空は、どこまでもくっきりと青く、真っ白い雲とのコントラストが怖いと思えるくらいに美しかった。そして、私はその美しさが何だか悲しかった。人はそう言う感情を抱く時シャッターを切れないものなのかも知れないね。