友情、愛情を意味するサンスクリット語の音写

昨日は友人Sの初七日だった。
Sが永眠して今日で一週間。時が几帳面に時間を刻む分だけ、思い出や悲しい記憶もまた刻まれて行く。

Sとの最期のお別れの時。
たくさんの花が供えられたSの棺を参列者が見守る中、とうとうその時はやって来た。棺に蓋が被せられ、嗚咽や涙声を棺に釘を打つ音が打ち消して行く。一番悲しい別れの時間だ。

棺の窓を閉めると言う時、それ迄棺から少し離れたところで俯いていたSのお母さんが棺の前にやって来た。棺の窓に顔を近づけると、それは穏やかな優しい笑顔でSに話しかけていた。そして、話終えたお母さんは、まるで広隆寺弥勒菩薩のような穏やかな表情でSに最期の別れをした。

あの時お母さんはSに何を話していたのだろう?
私の疑問に友人Mが答えてくれた。あの時お母さんはSにこう言っていたそうだ。

「今迄ありがとう。本当にありがとう。もうすぐそっちに行くから待っててね」

私の涙腺は完全に壊れた。涙が止まらなかった。
母親が一人息子に贈った最期の言葉。母親が贈ったからこそ涙が止まらなかった言葉。Sのお母さんはSが産まれた時にもきっと「ありがとう」と言ったような気がして、またしても涙が溢れた。

弥勒菩薩弥勒は、友情、慈愛などを意味するサンスクリット語の音写なんだそうだ。母親だからこそ、最期は涙ではなくて慈愛に満ちた穏やかな表情で息子の旅立ちを見送ったのだろう。

やがて棺の窓は閉じられ、Sの棺はお寺の外へと運ばれて行った。
Sの棺がお寺を後にする時、私は合掌と共に心の中で呟いた「来世で会おう!」と。