どこか空よりももっと遠いところ

「今日は外が白いんだね」と言って窓の外に視線を移すS。
「朝から雪が降ったり止んだりしてるんだよ。もう、すっかり春の筈なのにね」と白い理由を答える私。「そっか」と言って再び窓の外を見るSの瞳は、どこか空よりも、もっと遠いところを見ているようで思わず心がざわつく。

外が白かったこの日、Sから余りにも悲しい話を聞く事になるなんて・・・。
少し前にSに会いに来ていた外国人の友人が、帰国して間もなく突然亡くなってしまったのだと・・・。心筋梗塞で本当に突然の事だったらしい。

Sのノルウェーの旅の写真を見せてもらった時に、この友人を見た記憶があるのと、今回、Sの依頼でこの友人の札幌でのホテルと東京⇔札幌間の航空券の手配をして、何度も名前を聞いたり書いたりしていた事もあり、何と言うか全くの他人の気がしない、と言うか。

友人達が札幌に滞在している間、Sは「飛行機問題なかったよ」「ホテル凄く気に入ってくれたよ」「ホテル凄く喜んでたよ」と日々連絡をくれた。彼等が喜んでくれた事と、Sがとても楽しそうで私は凄く嬉しかった。Sからのメールは日々内容は同じだったりするんだけれども、最後には必ず「ありがとう!」の文字があって、何だか申し訳なく感じた。だって、皆が楽しそうで私は凄く嬉しかったから。だから、「ありがとう!」を言うのは私の方なんだよ、って。

それなのに。
突然亡くなってしまうなんて・・・。どうして・・・。こんな悲しい事があっていいの?おかしいよ、こんなのおかしいよ・・・。

医師からは最終的にSのノルウェー行きの許可は出なかったんだそうだ。
もう、Sの悲しみ、辛さを思うと涙がどっと溢れて止まらなかった。Sから健康も友人も、大切なものを次々と奪う悪魔を心底憎んだ。Sが一体何をしたって言うんだよ。

Sの友人が旅立って二ヵ月後。Sも友人のところへ旅立った。
あの外が白かった日、Sは旅立った友人がいるであろう空よりももっと遠いところを見ていたのだろうか。

魂が肉体を離れても、魂に刻まれた記憶は決して離れる事はないんじゃないかと思う。何度生まれ変わっても、魂に刻まれた記憶によって人は導かれ出会いと別れを繰り返すんじゃないか、って。きっと、現世で出会ってる人とは前世でも出会っていて、来世でもまた会える。一寸オカルトちっくだったかな・・・。

あの外が白かった日に何処からか聴こえて来た歌。
 
Sはもう空の向こうで友人に会えたのかな。